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誰が得するのか?

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(1)8月6日、中央最低賃金審議会(厚生労働相の審問機関)は、2010年度の最低賃金の引き上げ幅の目安を「全国平均で15円」とした小委員会の報告を了承し、長妻昭厚労相に答申した。時給713円を728円とするということである。これは名目で2.1%引き上げ、実質では、2.3%~2.6%の引き上げに相当する。

(2)この引き上げは、時給で働いている人の失業を増大させ、正規雇用と新規採用への下方圧力となる。

(3)本年4月の日本銀行による『経済・物価の展望(展望レポート)』では2010年度の消費者物価上昇率を-0.5%~-0.2%と予測している。したがって実質賃金率の上昇率は、2.3%~2.6%にするように政府が民間、特に中小・零細企業に指示したということである。もちろん、この政府決定がそのまま各都道府県レベルでそのまま決定されるわけではない。

(4)『展望レポート』では、2010年度の実質GDPの伸びをプラス1.6%~+2.0と予測しているのであるから、今回の政府の決定は、実質成長率以上に実質賃金率を引き上げよ、とういう決定である。

(5)企業は、販売増以上のコスト増にいかにして対処するか。二つしかない。売上を増加させるか他のコストを縮小することである。売り上げの増加が予測されるなら、その範囲でのコスト増加は吸収できるだろう。しかし、コスト上昇以上に売り上げの上昇がなかった場合は、すぐに企業の利益が減少してくる。企業、特に中小・零細企業は、売上減少、コスト上昇(物価の下落は実質賃金率の増加である。2009年度の消費者物価上昇率は-1.6%であるから、賃金率が変わらなく実質賃金率は1.6%上昇)に耐えきれないから、正規雇用を増やすのではなく非正規雇用を増加させたのである。

(6)ここで一層、実質賃金率を売上予測以上に引き上げた場合何が生じるだろうか。自給728円であると、一日5時間で、月9万1000円の収入となる。もちろんボーナスはゼロである。そうすると、年収109万8000円である。これでも生活は苦しいだろう。だから、もっと引き上げなければならないと「労働側」は主張するだろう。

(7)しかし雇用は企業の労働需要と労働者側の労働供給のバランスが取れたところを目指すものである。その調整役は賃金率(労働の価格)である。企業が支払うことのできる賃金以上に支払うことは、結局、他のコストを節約せざるをえなくなるのであるから、正規雇用量を減らすか正規雇用者の賃金を減少させるか、非正規雇用量を減らすか、赤字の累積による倒産しかない。倒産は、正規雇用者も失業することになる。

(8)そうなると、政府は中小・零細企業の救済や支援のために税金を用いざるをなくなる。非正規雇用者の生活を改善することを意図して、賃金率を引き上げることは、失業を拡大し、消費を引き下げ、景気を一層悪化せしめる方向に働くのである。

(9)「意図」と「結果」が異なるのが「社会現象」である。意図はよくても、意図せざる結果が出てくるのである。

(10)『ニューズウイーク』に3週間に一度の頻度でコラムを書くことを依頼された、当時のシカゴ大学教授、ミルトン・フリードマンが、最初に書いたコラム(1966年9月26日)の表題は、「最低賃銀率」であった。最低賃金率を時給1.25ドルから1.60ドルに引き上げる(+28.4%、65年10月から66年10月の消費者物価上昇率は3.7%でったので実質賃金率は24.7%の上昇率)という政府の決定で「もっとも傷つくのは低賃金労働者であり技術のない労働者である。雇用され続けるものはより高い賃金率を受け取るだろう。しかし、雇用されるものはますます、少なくなるだろう」、と。このコラムは、かなりの議論を喚起したが、今日、フリードマンの主張に疑問をはさむ論者は少ない

それでは、みなさま、ごきげんよう、さようなら。

by jedinagare | 2010-08-09 10:38 | 人生の羅針盤  

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